親から受け継いだ家、どうする?実家の処分と活用法

第5回:相続した実家の空き家に住むという選択肢
      〜リフォーム・生活の変化・老後を見据えて〜

親の空き家を相続したとき、多くの方がまず「売るか貸すか」を考えるかもしれません。しかし、もう一つ見逃せないのが「自分で住む」という選択肢です。

近年私の周りでは、
・退職を機に東京から実家のある福岡にある空き家となった戸建ての実家に帰ってくる友人、
・子育て終わったマンションを手放し空き家となった戸建ての実家に戻る友人などが増えてきています。

帰ってくる理由は様々ですが、みな晴れ晴れとした表情です。

相続した実家は、長年家族が暮らしていた大切な場所であり、思い出が詰まった空間でもあります。FP(ファイナンシャルプランナー)として、実家に住むことの経済的・生活的なメリットや注意点を、実例を交えながらご紹介します。

実例① 賃貸住宅から実家へ戻ったAさん実例① 賃貸住宅から実家へ戻ったAさん

Aさんは、長年会社員として賃貸住宅に住んでいましたが、両親が亡くなり実家を相続しました。

築40年の木造住宅でしたが、耐震補強と水回りのリフォームを行い、自宅として住むことを決断。

市内の中心部からは離れた場所にあり、不便さはあるものの、通勤には車を利用しており、特に問題は感じていないそうです。

賃貸家賃が不要になることで、年間100万円以上の支出削減に成功。固定資産税や光熱費はかかりますが、持ち家としての安心感と、リフォームによって快適な空間を手に入れたことで、心理的にも満足しているとのこと。

実例② マンションを売却して実家に住むBさんご夫婦

Bさんご夫婦は、市内のマンションに長年住み続けていましたが、定年を機にご主人の実家をリフォームし、夫婦で移り住みました。

マンションはローン完済後に売却し、その売却益の一部をリフォーム費用に充当。

結果として、住宅ローンのない生活と、老後資金の確保ができ、経済的にも精神的にもゆとりが生まれたと話しています。さらに、実家近くに親族が住んでおり、地域とのつながりも再構築できたことも大きな収穫だそうです。

実例③ 実家に住み、元の住居を賃貸に出すCさん

Cさんは、便利な立地にある分譲マンションに住んでいましたが、親から相続した実家が空き家となったことを機に、住まいの見直しを考えました。

もともとのマンションは駅近で利便性が高く、賃貸に出せば安定した収入が見込めると判断し、思い切って実家に移り住むことを決意。

実家は数キロ離れた場所にあり、以前は不便に感じていたものの、近年は再開発や店舗の増加で街全体が活気づいており、昔よりも暮らしやすくなったと感じているそうです。必要なリフォームを済ませたことで、快適に過ごせる空間を確保。現在は、住まいを変えたことで家賃収入を得ながら、持ち家に住むという安定したライフスタイルを実現しています。

このように「実家に住み、資産の活用先を変える」という柔軟な発想も、資産運用の一つの方法です。

実家に住むことの経済的メリット

FPの視点で考えると、実家に住む最大のメリットは「住居費の削減」です。現在の住宅ローンや家賃が不要になるだけで、長期的に見れば数百万円〜数千万円の違いとなることもあります。

さらに、以下のような点も見逃せません。

  • リフォーム費用は必要経費として計上可能な場合がある(賃貸や事業用活用の場合)
  • 住居費を抑えることで老後資金を温存できる
  • 生活の拠点を地方に移すことで、物価や生活費も低く抑えられる可能性がある

実家に住む前に確認すべきポイント

実家に住むことは、経済的にも精神的にも魅力的な選択肢ですが、「思い立ったらすぐ住める」わけではありません。住まいとして安心・快適に暮らすためには、事前にチェックすべきポイントがいくつもあります。あとで後悔しないためにも、以下の点はしっかり確認しておきましょう。

  1. 建物の老朽化状況のチェック
     耐震性や断熱性、水回りなど、生活に支障が出る部分がないか確認しましょう。築年数が古い場合は、大規模リフォームが必要になることもあります。
  2. 固定資産税や維持費の試算
     持ち家になることで発生する固定資産税や、将来的な修繕費も見込んでおく必要があります。
  3. ライフスタイルへの影響
     通勤・通学の利便性、周辺環境、医療や買い物のアクセスなども確認しましょう。
  4. 家族との合意形成
     同居や移住を検討する場合は、配偶者や子どもとの意見交換も重要です。

リフォーム費用の目安と支援制度 〜2025年・国と福岡市の最新情報〜

相続した実家に住むと決めたものの、「古くて住みにくい」「耐震性が不安」と感じる方も多いのではないでしょうか。実際に暮らすには、ある程度のリフォームが必要になるケースがほとんどです。ですが、その費用をすべて自己負担するのは大きな負担。そこで活用したいのが、国や自治体による支援制度です。

以下では、2025年現在利用できる国土交通省と福岡市の補助制度について、具体的にご紹介します。

国土交通省の支援制度

  1. 住宅省エネ2025キャンペーン 国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携により、住宅の省エネ化を支援する「住宅省エネ2025キャンペーン」が実施されています。詳細は住宅省エネ2025キャンペーン公式サイトをご覧ください。 主な補助事業は以下のとおりです:
    • 子育てグリーン住宅支援事業:​高い省エネ性能を有する新築住宅の取得や、住宅の省エネ改修等に対して支援を行います。詳しくは子育てグリーン住宅支援事業ページをご確認ください。​
    • 先進的窓リノベ2025事業:​断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化を支援します。詳細は先進的窓リノベ2025事業ページをご参照ください。​
    • 給湯省エネ2025事業:​高効率給湯器の導入促進による家庭部門の省エネルギー推進を目的としています。詳しくは給湯省エネ2025事業ページをご覧ください。​
    • 賃貸集合給湯省エネ2025事業:​既存賃貸集合住宅の省エネ化を支援します。詳細は賃貸集合給湯省エネ2025事業ページをご確認ください。​

福岡市の支援制度

  1. 住宅の耐震改修工事費補助事業 耐震診断の結果、「倒壊する可能性が高い」と判定された木造戸建住宅の耐震改修工事に対し、費用の80%以内(上限150万円)の補助が受けられます。詳細は福岡市公式サイトの該当ページをご覧ください。
  2. 住宅用エネルギーシステム導入支援事業 太陽光発電システムやリチウムイオン蓄電システムなどの導入に対し、補助金が交付されます。例えば、住宅用太陽光発電システムの場合、1kWあたり2万円(上限10万円)の補助が受けられます。詳しくは福岡市公式サイトの該当ページをご確認ください。
  3. 住宅改造助成 身体機能の低下した高齢者がいる世帯を対象に、住宅を高齢者に適した形に改造する際の費用の一部を助成します。助成率は所得に応じて異なり、上限額は30万円です。詳細は福岡市公式サイトの該当ページをご覧ください。
  4. 空き家活用補助金 市街化調整区域において、空き家の改修工事費や家財道具の撤去費の一部を助成する制度です。詳しくは福岡市公式サイトの該当ページをご確認ください。

これらの支援制度を活用することで、リフォーム費用の負担を軽減し、より快適な住環境を実現することが可能です。各制度の詳細や申請手続きについては、上記のリンク先をご参照ください。


実家に住むという選択肢がもたらす安心感

実家に戻ることは、単に家賃を抑える以上の意味があります。慣れ親しんだ風景、顔なじみのご近所さん、季節の移ろいを感じる街並み――そこには、過去の記憶と安心感が息づいています。買い物帰りに声をかけてくれる人がいる、困った時に頼れる場所がある。そんな“つながりのある暮らし”は、何よりのセーフティネットとなり、心の豊かさを取り戻してくれるのです。


まとめ

相続した実家に住むという選択は、経済的な合理性だけでなく、「自分の人生を見つめ直す機会」でもあります。賃貸やローンに縛られない暮らし、親の思いを受け継ぐ住まい、地域との温かなつながり――それらは、今後の暮らしをより豊かにしてくれるはずです。リフォームや支援制度を上手に活用しながら、自分らしい「住まいのあり方」を一度立ち止まって考えてみませんか?

  • 住居費の削減による老後資金の確保
  • 家族との生活スタイルの見直し
  • 地域とのつながりの再構築
  • 資産活用の柔軟な発想

これらを見つめ直すきっかけになるかもしれません。

次回は、「実家を処分する際にかかる税金と費用」について詳しくご紹介します。

投稿者プロフィール

miwa
miwa