『ちゃんと伝えた“つもり”』
第1回 「前にも言ったよね?」が増えたとき

「前にも言ったよね」と思うことはありませんか

「前にも言ったよね」

家族との会話でも、仕事でも、ついそう思ってしまうことがあります。頼んだことがそのままになっていたり、説明したはずのことが伝わっていなかったり。同じ質問が繰り返されたりするたびに、「ちゃんと話したはずなのに」と感じる人も多いのではないでしょうか。

私自身もそうです。そして正直に言うと、その瞬間は腹が立ちます。何度も説明したのに、確認もしたのに、なぜまた同じところに戻るのだろうと思うことがあります。

不思議なのは、相手に悪気がないことです。聞いていなかったわけではない。その場ではうなずいていたし、納得しているようにも見えた。それなのに後になって話が戻ってしまう。だからこそ、「なぜ伝わらないのだろう」とモヤモヤするのです。

なぜ「前にも言ったよね」が起きるのか

私は仕事でもプライベートでも、人に何かを説明する場面が少なくありません。

家族のことだったり、仕事のことだったり、手続きのことだったり。

そのたびに思うことがあります。

人は話を聞いていないわけではない。

でも、同じように理解しているとも限らない。

その場では真剣に聞いています。うなずいていますし、「わかりました」と言われることもあります。

ところが後になって、「どうしたらいいですか」となることがあります。

以前の私は、「説明したのだから伝わっているはず」と思っていました。一度説明したのだから覚えているはず。資料を渡したのだから理解しているはず。ここまで言えばわかるはず。そう考えるのは自然なことです。

しかし実際には、こちらが大事だと思っていることと、相手が大事だと思っていることが違う場合があります。

こちらは期限を重視している。相手は別のことを優先している。こちらは順番を気にしている。相手は目の前のことで精一杯になっている。

どちらも真面目です。どちらも悪気はありません。ただ、見ている景色が違うのです。

私自身も「前にも言ったよね」と思った出来事

先日、ある手続きについて説明する機会がありました。必要書類を確認しながら、その場で記入してもらいました。提出先や提出期限も説明し、相手もうなずいていました。私自身も「これなら大丈夫だろう」と思っていました。

ところが後日、「どうしたらいいですか」と連絡がありました。

その瞬間、「前に説明しましたよね」と思いました。何度も説明したつもりでしたし、確認もしていました。だからこそ力が抜けました。

しかし後から考えると、相手は話を聞いていなかったわけではなかったのかもしれません。その場では理解したつもりだった。ただ、私と同じようには理解していなかった。そんなことも十分にあり得ます。

「前にも言ったよね」の本当の原因

この出来事を振り返ったとき、私は別のことに気づきました。私が腹を立てていたのは、説明が伝わらなかったことだけではなかったのです。

私は時間をかけました。確認もしました。相手が困らないようにと思って動きました。だからこそ、「わからない」と言われたときにがっかりしたのです。

伝わらなかったことよりも、自分がかけた手間や気遣いが無かったことになったような感覚の方が大きかったのかもしれません。

そしてもう一つ気づいたことがあります。

相手は聞いていなかったわけではないのです。むしろ、その場では「わかった」と思っていたのだと思います。

でも実際には、「わかった」と「わかったつもり」は違います。

私たちは、わからないことを認めるのが苦手です。今ここで質問するほどではない。あとで資料を見ればいい。後で調べればわかる。そんなふうに考えることがあります。

また、「わからない」と言うことで能力が低いと思われたくない人もいます。相手の話を止めるのが申し訳ないと感じる人もいます。だから、人はわかっていなくても、うなずくことがあります。

そして厄介なのは、本人も「理解できていない」とは思っていないことです

本人は理解したつもりでいる。だから質問もしない。確認もしない。そして期限が過ぎたり、手続きが進まなくなったりしてから困るのです。

そのとき初めて、「どうしたらいいですか」となります。

私は長い間、「前にも言ったよね」の原因は説明不足か、相手が聞いていないかのどちらかだと思っていました。

でも最近は少し違います。

「前にも言ったよね」が起きる理由は、説明不足だけではないのかもしれません。

相手が理解していないのではなく、「理解したつもり」になっている。

そんなことも少なくないように思います。

「前にも言ったよね」と思ったときの対処法

もし次に「前にも言ったよね」と思いそうな場面があったら、「わかりましたか?」で終わらせないようにしてみてください。

人は話を聞いていないわけではありません。ただ、「わかったつもり」になっていることがあります。だから私は、説明が終わったあとに認識のズレがないか確認するようにしています。

私が意識していること

  • 「わかりましたか?」だけで終わらせない
  • 相手がうなずいたからといって安心しない
  • 「じゃあ、この後の流れを一緒に確認しておきましょうか」と声をかける
  • 相手の言葉で流れを話してもらう
  • 認識のズレが見つかっても責めない

例えば、

「私はそういう意味だと思っていました」

「そこは後でやればいいと思っていました」

そんな言葉が出てきたら、認識のズレが見つかったサインです。

私も何度も失敗しました。相手がうなずいていると安心してしまうのです。でも、うなずきは理解の証拠ではありません。

だから最近は、「じゃあ、この後の流れを一緒に確認しておきましょうか」と一言添えるようにしています。

説明したことを確認するのではなく、認識がそろっているかを確認する。そのひと手間が、後々の大きなすれ違いを減らしてくれるように感じています。

まとめ|「前にも言ったよね」の裏側にあるもの

「前にも言ったよね」

この言葉を口にするとき、私は相手に腹を立てています。

でも振り返ると、相手は聞いていなかったわけではありませんでした。やる気がなかったわけでもありませんでした。

ただ、「わかったつもり」になっていただけだったのかもしれません。

「前にも言ったよね」の裏には、伝わらなかった苛立ちだけではなく、「ここまでやったのだから伝わっているはず」という期待も隠れています。

もし次に「前にも言ったよね」と思いそうになったら、説明を繰り返す前に、「じゃあ、この後の流れを一緒に確認しておきましょうか」と声をかけてみる。

それが、すれ違いを減らす第一歩になるように思います。


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