
ちゃんと伝えた“つもり”
第5回 『今日中』が伝わらなかった理由
「今日中にお願いします」
以前、デザイン会社に印刷物のデザインをお願いしたことがありました。
その日の夜10時までに印刷会社へデータを渡さなければならないことが分かり、担当の方にこうお願いしました。
「今日中に仕上げてください。」
私の頭の中では、「今日中」とは夕方6時頃までのことでした。
就業時間内にデータが届けば内容を確認し、必要があれば修正をお願いして、夜10時までに印刷会社へ入稿できます。
その流れを、私は当然の前提として考えていました。
ところが、データが届いたのは夜11時50分。
担当の方は約束どおり、「今日中」に送ってくださったのです。
でも、その時間では印刷会社の締め切りには間に合いませんでした。
そのとき気づきました。
私は「今日中」と伝えていました。
でも、「なぜ今日中なのか」という前提は伝えていなかったのです。
言葉だけでは、前提は伝わらない
私たちは普段、
「あとで。」
「今日中に。」
「できるだけ早く。」
そんな言葉を何気なく使っています。
でも、その言葉の裏には、それぞれ違う前提があります。
私にとっての「今日中」は、確認や修正を終えて印刷会社へ入稿できる時間でした。
一方、担当の方にとっては、その日の23時59分までに納品すれば約束どおりです。
どちらも間違っていません。
違っていたのは、お互いが思い描いていた前提でした。
当たり前ほど、言葉にしていない
振り返ると、本当に伝えるべきだったのは、
「今日中にお願いします。」
ではありませんでした。
「夜10時までに印刷会社へ入稿したいので、確認の時間も含めて、夕方6時頃までにいただけると助かります。」
そこまで伝えて、初めて担当の方は私と同じ状況をイメージできます。
自分にとって当たり前のことほど、相手も分かっていると思い込んでしまいます。
でも、その「当たり前」は、自分の中だけの前提なのかもしれません。
前提を共有すると、すれ違いは減る
今回の出来事で、「今日中」という言葉が悪かったわけではありません。
問題だったのは、その言葉の後ろにある前提が共有できていなかったことでした。
私には、「確認して修正し、夜10時までに印刷会社へ入稿する」という前提がありました。
担当の方には、「今日中に納品する」という前提がありました。
お互いに自分の前提で考え、行動していたのです。
どちらも間違ってはいません。
でも、前提が違えば、同じ言葉でも違う結果になります。
「わかっているはず」が、すれ違いを生む
これは仕事だけの話ではありません。
「あとでお願いね。」
「時間があるときでいいよ。」
「いつものように。」
私たちは日常の中で、たくさんの曖昧な言葉を使っています。
そのたびに、自分の中では当たり前になっている前提を、相手も知っているような気持ちになってしまいます。
でも、その前提は相手には見えていません。
だから、「ちゃんと伝えたのに」と思っていても、相手は違うイメージで受け取っていることがあります。
まとめ|前提は、言葉にして初めて伝わる
言葉は短くても伝えられます。
でも、その言葉の後ろにある前提は、言葉にしなければ伝わりません。
「今日中」という一言も、
「夜10時までに印刷会社へ入稿したいので、確認の時間を考えて夕方6時頃までにお願いできますか。」
ここまで伝えれば、相手も同じ状況を思い描くことができます。
私たちは、自分の「当たり前」を相手も知っていると思いがちです。
でも、本当に伝えたいことは、その「当たり前」の中に隠れているのかもしれません。
「ちゃんと伝えた。」
そう思ったときほど、一度だけ立ち止まって考えてみる。
相手は、私と同じ前提で考えているだろうか。
その問いを持つだけで、すれ違いは少し減らせるように思います。
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