
ちゃんと伝えた“つもり”
第6回 ちゃんと伝えることがゴールではない
一生懸命説明したのに、何も変わらない
自分の気持ちや考えを、きちんと言葉にすることは大切です。曖昧にせず、相手に分かるように説明する。必要なことを確認し、誤解がないように補足する。それでも、思ったように伝わらないことがあります。
何度も説明した。相手もうなずいていた。「分かりました」と返事もあった。それなのに、行動は変わらない。話が進まない。また同じところですれ違ってしまう。
そんなとき、「これ以上、どう伝えればいいのだろう」と疲れてしまうことがあります。
でも、もしかすると問題は、説明の量や言葉の選び方だけではないのかもしれません。
「ちゃんと伝えた」が目的になっていないか
伝える側は、話し終えると一つの仕事を終えたような気持ちになります。
必要なことは言った。資料も渡した。確認もした。だから、自分の役割は果たしたと思います。
けれど、本来の目的は「説明を終えること」ではないはずです。相手に次の行動をしてもらうことだったり、一緒に判断することだったり、お互いの認識をそろえることだったりします。
説明することに集中しすぎると、その先に何を目指していたのかが見えなくなることがあります。
「私はちゃんと伝えた」と証明することが目的になってしまえば、伝わらなかった原因は、すべて相手の側にあるように見えてしまいます。
分かることと、動けることは違う
話の内容を理解していても、すぐに行動できるとは限りません。
やるべきことは分かっていても、不安がある。決めるための材料が足りない。家族や職場の事情が気になっている。頭では理解していても、気持ちが追いついていないこともあります。
その状態で説明を重ねても、相手は動けません。むしろ「分かっているのに、なぜできないのだろう」と追い詰めてしまうこともあります。
大切なのは、「理解したか」だけではなく、「次に動ける状態になっているか」を見ることです。
伝えることは、相手を動かす命令ではありません。相手が自分で考え、判断し、次に進めるようにするための手段なのだと思います。
伝わらないときに確認したいこと
「ちゃんと伝えたのに」と思ったとき、同じ説明を繰り返す前に、少し違う角度から考えてみることができます。
確認したい五つのこと
- 相手は、何を一番知りたいと思っているのか
- お互いの前提や「当たり前」はそろっているか
- 曖昧な言葉を、違う意味で受け取っていないか
- 相手は、次に何をするか具体的に分かっているか
- 理解はしていても、動けない理由が残っていないか
すべてを一度に確認する必要はありません。
たとえば、「何か分からないことはありますか」と聞く代わりに、「このあと、まず何から始めますか」と尋ねてみる。相手の答えを聞けば、理解のズレや、まだ整理できていない部分が見えることがあります。
「どうして動かないの」と責める前に、「動けない理由が残っているのかもしれない」と考える。その視点だけでも、会話は変わります。
相手を納得させることもゴールではない
相手に納得してもらおうとすると、自分の考えを受け入れさせる方向へ進んでしまうことがあります。
けれど、納得は誰かに与えられるものではありません。十分に説明を聞き、選択肢を比べ、自分の事情や気持ちと向き合った末に、本人の中で生まれるものです。
説明を聞いた結果、「進める」と決めることもあります。「今回はやめる」と決めることもあります。こちらが望んだ結論と違っていても、本人が考えて決めたのであれば、それも一つの納得です。
伝える側にできるのは、結論を決めることではありません。判断に必要なことを整理し、相手が自分で考えられる状態をつくることです。
まとめ|伝えることは、相手と理解をつくること
ちゃんと伝えることは大切です。
でも、伝えること自体がゴールではありません。たくさん説明することでも、相手を納得させることでもありません。
相手がどのように受け取ったのかを知ること。違っている前提をそろえること。次に何をすればよいのかを、一緒に確認すること。そうしたやり取りを重ねながら、理解をつくっていくことなのだと思います。
それでも、すれ違いがなくなるわけではありません。どれだけ言葉を尽くしても、同じように理解できないことはあります。
だからこそ、「ちゃんと伝えた」で終わらせず、「どのように伝わったのだろう」と、もう一度相手を見る。
この連載で考えてきたのは、うまく話す方法ではありません。自分の“つもり”に気づき、相手との間にあるズレを一つずつ整理することでした。
伝えることは、一方通行ではありません。
相手と一緒に理解をつくるところから、本当のコミュニケーションが始まるのだと思います。
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ちゃんと伝えた“つもり”シリーズまとめ
第1回 「前にも言ったよね?」が増えたとき
第2回 良かれと思っていたのに
第3回 私ばっかりが苦しくなる理由
第4回 あれだけ説明したのに伝わらない理由
第5回 『今日中』が伝わらなかった理由
投稿者プロフィール

- 有限会社オールバーグ代表。企業・学校で27年以上、延べ1万人以上の人材育成に携わる。「人生の判断に、納得を。」をテーマに、自分で考え、納得して判断するためのヒントを発信しています。
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