
第6回:教育費は投資か、親の願いか?
はじめに|教育費は“投資”なのか、“親の願い”なのか?
子どもの進学は、親にとって嬉しい節目であると同時に、大きな「お金の不安」に直面する瞬間でもあります。奨学金、学費、生活費──高校や大学の進学には多額の費用がかかります。
「教育費は本当に投資なのか?」「かけた分、リターンはあるのか?」と悩む方も多いでしょう。今回は、教育費の実例とともに、投資か、願いか──その“意味”を一緒に考えます。
あなたは、子どもの教育費を“投資”と考えますか?それとも“願い”と考えますか?
娘を送り出した実体験から考える、教育費の重みと現実
私には、東京の私立大学へ進学した娘がいます。中高一貫の私立校から始まり、大学卒業までにかかった費用は、かなりの金額になりました。
塾や習い事、一人暮らしの生活費、帰省やゼミ旅行など、想像以上に多岐にわたり、細かい積み重ねが大きな支出となっていきました。
娘は奨学金を受給して進学しましたが、生活費や学費の多くは親が負担してきました。
子どもの夢を応援したことに後悔はありません。
けれど、卒業後も東京で就職し、結婚。 地元に戻る見込みはなく、親である私たちは老後を自分で支えていかなければなりません。
私たちとは違う選択をした家庭もあります。地元の大学へ通わせ、近くに住み続けている家族もいて──孫のお世話をしながら、笑顔で暮らす親御さんの姿を見ると、胸が温かくなる反面、少しだけ心が揺れることもあります。
でも、進学を決めた時、東京行きは「片道切符」と覚悟して送り出しました。その覚悟に、今も悔いはありません。
教育に悔いはありません。ただ、その分、老後資金をどう準備していくかは、私たちにとってこれからの大きなテーマです。

教育費はどのくらいかかる?日本の現状
文部科学省の調査によると、幼稚園から高校まですべて公立の場合、約570万円。すべて私立なら約1,840万円。大学まで含めると、下記のような試算となります:
- 大学まで公立:約800万〜1,000万円
- 大学まで私立:約2,000万〜2,500万円
出典:令和6年 文部科学省|子どもの学習費調査
※文部科学省の試算はあくまで全国平均であり、実際には地域差や学校選択(私立・公立)、一人暮らしの有無、塾や習い事、帰省費などで大きく異なります。特に都市部や私立進学の場合、実体験としては文科省データの2〜3倍になることもあります。
さらに、大学進学後の費用として、一人暮らしの生活費も見逃せません。
大学生協の「第60回学生生活実態調査」(2024年実施)によれば、
一人暮らしの大学生の生活費は月13.1万円、年間約160万円が平均です。
| 費目 | 月額平均 | 年額換算 |
|---|---|---|
| 家賃 | 約56,090円 | 約67万円 |
| 食費 | 約26,110円 | 約31万円 |
| 教養・娯楽 | 約13,870円 | 約17万円 |
| 教材・書籍 | 約4,000円 | 約5万円 |
| 交通・通信・交際費 | 約25,000円〜30,000円 | 約30万円 |
| 合計(自宅外生) | 約13.1万円/月 | 約160万円/年 |
なお、実際の生活費は地域や生活スタイルにより異なり、家賃が高い都市部では月15万〜17万円台に達することもあります。
加えて、以下のようなデータもあります:
- 大学生の約48.3%が奨学金を利用(日本学生支援機構・令和4年度)
- 第一種奨学金(私立・自宅外):最大月64,000円
- 第二種奨学金:月額2万円〜12万円(1万円単位で設定)
- アルバイト収入の平均:月4.4万円(大学生協・2024年調査)
出典:日本学生支援機構|学生生活調査
奨学金は「学生ローン」とも言われる通り、将来的には返済が必要です。たとえば、月64,000円の第一種奨学金を4年間利用すれば、総額は約307万円(無利子)。第二種奨学金(有利子)と併用すれば、卒業時点で500万円以上の返済を抱えるケースも。就職後の返済計画も含めて、慎重に検討する必要があります。
これらを組み合わせても、生活費や学費を全てまかなうには不十分であり、親の支援が不可欠であるのが実情です。
教育費は“投資”か、それとも“願い”?──数値で見る現実
大学卒業者と高卒者の生涯賃金の差は、日本学生支援機構の調査によると約5,000万円〜6,000万円と言われています。
出典:日本学生支援機構|教育と生涯賃金との関係
仮に、大学までの教育費に1,000万円をかけたとして、生涯で5,000万円の収入差が生まれたなら──。
かけた金額に対して、金銭的な差はたしかにあります。
でもそれは、必ず「親に返ってくる」ものではありません。
教育費とは、「子どもがどんな場所にいても、どんな道を選んでも、自分で生きていける力をつけてほしい」という“願い”に近い。
親として、その願いにお金をかけることに、私は悔いはありません。
教育費は“投資”ではなく、“選択”である
教育費に対して、「回収できるかどうか」だけで判断するのは難しいです。 子どもがどこに住み、どんな人生を選ぶかはコントロールできません。
それでも、親は信じて支える。見返りを求めるのではなく、「自分の納得」のために出すお金でもあります。
あなたは、教育費を“投資”として出せますか?それとも“願い”として出しますか?
教育費を出すかどうか──その前に「自分の老後も見据えているか?」という視点を持つことが、親としての備えでもあるのです。
教育費と親の未来、どう備える?
- 目の前の学費や生活費、それはすでに“未来への出費”になっている
- 「子どもにかけるお金」と「自分に残すお金」、そのバランスは誰にもわからない
- 応援したい気持ちと、老後への不安──親の心はいつも揺れている
- だからこそ、「何を願ってこのお金を出すのか」を、自分で選び取っていく
教育費に後悔はない。けれど、備えは必要。
あなたは、どんな未来に向けて、今のお金を使いますか?
教育費の不安は、一人で抱え込まず、家計全体や老後資金とのバランスをプロと一緒に考えることで、より現実的な選択が見えてきます。
▶ 家計見直しやライフプラン作成は、ファイナンシャルプランナー(FP)への相談も有効です。
次回は「病気・ケガ・入院…もしものときの備え」について、医療費・収入減の不安と向き合う方法をお届けします。
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