
静かな時間が教えてくれる、老後の豊かさ
平日の午前、曇り空の下、バイクで海へ向かった。風は少し冷たく、海の色もどこか深い。それでも波は良かった――静けさが、心を自分の中心へと戻してくれる日。
風と海と、ひとりの時間

海岸ではサーファーたちが波を待っていた。ひとりの男性がボードを抱えて浜辺を歩いてきて、私のバイクに目をとめ、にこやかに言う。
「バイク、かっこいいですね」。
「いつもはもっとライダーが多いんですけどね」と彼は続けた。
穏やかな口調に、私は同年代だろうと勝手に思ったのだけれど、話の流れで聞くと、まさかの70歳。日焼けした肌と軽やかな声に、年齢を感じさせるものは何ひとつなかった。
「老後は人に煩わされず、一人でできることが楽しいですよね」。その一言が、曇り空の明るさのように、胸にすっと染みた。
さりげない会話の温かさ

海をあとにして立ち寄った糸島の小さなイタリアン。白い壁と木のカウンター、窓の外には海。オーソブッコをゆっくり味わっていると、常連らしき男性が入店し、私の皿を見て「それ、おいしそうですね。私も同じの頼んでみようかな」と声をかけてくれた。
一人でいても、ふとした瞬間に人とつながる。求めていなくても自然に交わされる言葉が、ひとり時間にやわらかな温度を灯すことがある。
老後の幸せとは
老後の幸せは、「一人の時間」をそれぞれの豊かさで満たすこと。
人とのつながりも、孤独も、どちらも人生の一部。静かな時間を自分の意思で選び、その中に小さな喜びを見つけられることが、心の自由へとつながっていく。
予定を詰め込むよりも、風を感じ、海を眺め、ふと誰かと笑い合う。そんな日が、きっと一番の贅沢なのだと思う。
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