残業時間と働く人、会社や職場の事情を天秤にかけ、働き方をどう判断するかを表したイメージ

ニュースで磨く判断力 Vol.5                                「残業は月45時間まで」の一律指導見直し 働き方は誰が決める?

「残業は少ない方がいい」

そう聞けば、その通りだと思う人は多いでしょう。

けれども、人手が足りない会社で繁忙期を迎えたときはどうでしょう。あるいは、本人が「今はもう少し働きたい」と考えていたら。

一つの基準で全員を守ることと、それぞれの事情に合わせて選べる余地を残すこと。

今回のニュースには、そんな簡単には答えの出ない問題があります。

今回のニュース|残業への「一律指導」を9月から見直し

厚生労働省は8月19日、時間外労働に関する労働基準監督署の指導を、9月1日から見直すと発表しました。

厚生労働省「時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75454.html

これまで労働基準監督署では、特別条項付きの36協定によって月45時間を超える時間外労働が可能な事業場についても、時間数に着目して「月45時間以内」への削減を一律に求める指導を行ってきました。

9月からは、この一律の指導を見直します。

今後は、各事業場が36協定で定めている「労働者の健康や福祉を確保するための措置」が実際に行われているかを重点的に確認し、職場の状況に応じて必要な指導を行うとしています。

ただし、ここは誤解したくないところです。

「残業は45時間を超えても自由にしてよい」というルールに変わるわけではありません。

今回変わるのは、法律の上限規制そのものではなく、労働基準監督署による指導の方法です。

そもそも「月45時間」とは?

時間外労働には、法律上の上限があります。

36協定を結んだ場合でも、時間外労働は原則として月45時間・年360時間以内です。

臨時的な特別の事情があり、労使が合意して特別条項を設ける場合でも、年720時間以内、休日労働を含めて単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限があります。

つまり、今回の見直しによって「残業の上限がなくなる」わけではありません。

厚生労働省「時間外労働の上限規制」
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/overtime.html

なぜ見直すのでしょうか

厚生労働省は、今回の見直しについて、2026年7月に閣議決定された「日本成長戦略」と「経済財政運営と改革の基本方針2026」を踏まえたものだと説明しています。

重大・悪質な事案には厳正に対応しながら、労働時間や健康確保措置については、労使の合意や職場の実態を踏まえた指導に変えるという考え方です。

同時に、企業への相談支援も強化されます。

9月から全国の「働き方改革推進支援センター」に専門相談窓口を設け、36協定や特別条項、柔軟な労働時間制度について相談できる体制を整えます。労働基準監督署とのチームによる訪問支援も行うとしています。

つまり今回の変更は、単純に「規制を緩める」というより、時間数だけで一律に判断する方法から、職場の実態や健康確保措置も確認して判断する方法へ変えるというものです。

一方で、「長時間労働が増えるのでは」という懸念も

この見直しに対しては、労働側から反発も出ています。

連合の芳野友子会長は、時間外労働を促しかねないとして懸念を示しています。労働者の命や健康を守るためには、長時間労働に依存しない働き方を進めるべきだという立場です。

朝日新聞も、今回の見直しをめぐる反発や、長時間労働への懸念を報じています。

朝日新聞「残業『例外中の例外』の45時間超、反発広がる」
https://smart.asahi.com/v/article/ASV8N3GHQV8NULFA01CM.php

ここに、今回のニュースの難しさがあります。

一律の基準は、人を守るために必要です。

一方で、すべての会社、すべての仕事、すべての働く人に同じ対応を求めることで、現場の事情に合わない場合もあります。

では、どこまで共通のルールで守り、どこから個別の判断に委ねるのか。

ここからは、もう少し身近な場面に置き換えて考えてみましょう。

今回の判断軸

「あと5万円あれば助かる。残業できるならしたい」と思ったら

物価が上がり、住宅ローンや教育費もある。今月は出費も多かった。

そんなとき、「残業を減らしてください」と言われても、働く本人にとっては必ずしもありがたい話とは限りません。

では、残業できるだけした方がいいのでしょうか。

ここで確認したいのは、**「今月働けるか」だけではなく、「この働き方を続けられるか」**です。

月にあと何時間働けば、手取りはいくら増えるのか。そのために睡眠や休日がどのくらい減るのか。疲れが翌月まで残っていないか。

確認したうえで、「今月だけ増やす」「毎月は続けない」「収入を増やす別の方法を考える」という選択もできます。

収入を増やしたいという希望と、働き続けられること。その両方を見て決める。

これも一つの判断軸です。

「残業しないと仕事が終わらない」と思ったら

毎日定時になっても仕事が残っている。

自分が遅いのだろうか。もう少し頑張れば終わるのだろうか。

そう考えて、残業を続けてしまうこともあります。

でも、一度確認したいのは、残業の原因が本当に自分にあるのかということです。

仕事量そのものが多すぎるのかもしれない。人が足りないのかもしれない。特定の人に仕事が集中しているのかもしれません。

それなら、「もう少し頑張る」以外にも、上司に仕事量を伝える、優先順位を確認する、分担を見直してもらうという行動があります。

自分の頑張りで埋める前に、仕事の仕組みに問題がないかを見る。

これも判断です。

「本人がやると言っているから」と思ったら

経営者や管理職にとっては、こちらの方が難しいかもしれません。

繁忙期で人手が足りない。納期は迫っている。

そんなとき社員から「大丈夫です。残ります」と言われたら、お願いしたくなることもあるでしょう。

でも、その「大丈夫」は本当に大丈夫でしょうか。

本人が希望しているのか。断りにくくて言っているのか。特定の人だけに残業が偏っていないか。先月も同じ状態ではなかったか。

そこを確認して初めて、「今回は残業で対応する」「仕事を分ける」「納期を相談する」「人員を増やす」といった選択肢が見えてきます。

本人の「大丈夫」を、会社の判断を止める言葉にしない。

これも、働く人を守る側の判断軸です。

「残業禁止」と言われたら

もう一つ、逆のケースもあります。

会社から「残業は禁止。定時で帰ってください」と言われた。でも、仕事量は変わっていない。

そうなると、持ち帰って仕事をしたり、休憩時間を削ったり、勤務時間を記録せずに働いたりする人が出てくるかもしれません。

数字の上では残業が減っていても、それでは働き方が改善したとは言えません。

確認すべきなのは、残業時間が減ったかではなく、時間内に終えられる仕事量になったかです。

終わらないなら、仕事を減らす、優先順位を変える、人を増やす、期限を見直す。

時間だけを制限するのではなく、仕事量も一緒に変える。

これも今回のニュースから考えておきたい判断です。

守ることと、選べること

こうして具体的な場面に置き換えてみると、「残業は多い方がいい」「少ない方がいい」だけでは判断できないことが分かります。

ルールが厳しければ、人を守れる。一方で、自由度を高めれば、一人ひとりの事情に合わせた働き方を選びやすくなります。

どちらも間違いではありません。

問題は、どこまでルールで守り、どこから本人や会社の判断に委ねるのかです。

そして個別に判断する余地が広がるほど、「本人が望んだから」「会社の事情だから」だけではなく、何を確認して、その判断をしたのかが重要になります。

判断したら、次はどう動くのか。

残業する。減らす。相談する。仕事量を変える。人を増やす。期限を見直す。今は何も変えず様子を見る。

選択肢は一つではありません。

だからこそ、判断軸を持ち、状況を確認して、自分たちに合った行動を選ぶことが必要になります。

自分なりの判断軸を持つことについては、こちらのシリーズでも考えています。

「迷ったときの決め方」シリーズまとめ
https://orbague.com/mayotta-kimekata/

あなたならどう考えますか?

もし「残業は月45時間以内にしてください」と言われたら、あなたはどう感じるでしょうか。

「健康のために必要」と思うでしょうか。それとも、「もう少し働くかどうかは自分で決めたい」と思うでしょうか。

そして、残業をするか迷ったとき、何を確認しますか。

収入でしょうか。仕事量でしょうか。健康でしょうか。家族との時間でしょうか。それとも、この働き方をこの先も続けられるかでしょうか。

自由に選べることと、ルールによって守られること。

その間のどこに線を引くのか。

今回のニュースを、自分の働き方や職場に置き換えて考えてみてはいかがでしょうか。

参考資料・出典

・厚生労働省「時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します」(2026年8月19日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75454.html

・厚生労働省「時間外労働の上限規制」
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/overtime.html

・朝日新聞「『残業は45時間まで』の一律抑制とりやめ 9月から、労基署の指導」(2026年8月19日)
https://smart.asahi.com/v/article/ASV8M2VS4V8MULFA01WM.php

・朝日新聞「残業『例外中の例外』の45時間超、反発広がる」(2026年8月20日)
https://smart.asahi.com/v/article/ASV8N3GHQV8NULFA01CM.php


投稿者プロフィール

秋吉美和
秋吉美和
有限会社オールバーグ代表。企業・学校で27年以上、延べ1万人以上の人材育成に携わる。「人生の判断に、納得を。」をテーマに、自分で考え、納得して判断するためのヒントを発信しています。