
給付型奨学金がなかった世代のための奨学金返済ガイド
この記事は、現在35歳前後(1990年前後生まれ)で、第二種奨学金の返済が続いている子育て世代に向けた実務ガイドです。
結論から言うと、35歳で返済が残っているのは珍しいことではありません。
むしろ制度上、そうなりやすい設計です。
1. 35歳前後世代の奨学金は「まだ終わっていない」
現在35歳前後(おおむね1990年前後生まれ)の多くは、奨学金返済の真っ只中にいます。
なぜなら、大学進学期(2008〜2012年前後)は、
- 日本学生支援機構(JASSO)の国の給付型奨学金がまだ存在しなかった(国の給付型が本格導入されたのは2017年度以降)
- 第二種奨学金(有利子)が事実上の標準だった
という時代背景があるからです。
そのため、「借りる以外に進学の選択肢がない」家庭も多く、制度の過渡期を直撃した世代と言えます。
2. 実際、いくら借りて、いくら残っているのか
まずは、現実的な数字を整理します。
よくある実例(借入総額)
- 借入総額:300〜400万円
- 返済期間:20年(240回)
35歳時点は「終盤」ではありません
22歳で大学を卒業し、第二種奨学金(返済期間20年)を利用した場合、完済は42歳前後になります。
したがって35歳は、返済が「そろそろ終わる」年齢ではなく、まだ7〜8年前後の返済期間が残っている地点です。
35歳時点の残高目安
返済期間の6割が経過していますが、35歳時点ではまだ160〜220万円前後の残高が残っているケースが多く見られます。
この「残り方」が、家計のしんどさにつながります。
3. 第二種の利率は0.5%だけではない(2010〜2012年前後貸与終了世代の目安)
利率は人によって違います。
しかし、当時の目安を知っておくと、話が現実に近づきます。
- 利率見直し方式:0.2〜0.6%前後
- 固定方式:1.0〜1.5%前後
記事内のモデルでは年0.5%を使います。
4. 問題は「金額」ではなく「重なる時期」
月1万5,000円。
この金額だけを見ると、「致命的ではない」と感じるかもしれません。
しかし、本当の問題は金額の大きさではありません。
35歳前後は、支出が一気に重なります。
- 奨学金返済:月15,000円
- 保育料・学童:月30,000〜60,000円
- 住宅ローン(または家賃):月80,000〜120,000円
- 車関連費:月20,000円前後
この時点で、固定費だけで月15〜20万円超になりやすいです。
さらに、習い事・医療費・冠婚葬祭が加わります。
つまり、奨学金が最大の支出ではないのに、最後の一押しとなって家計の首を絞める。
これが現実です。
5. ボーナス返済は家計を壊すリスクがある
第二種奨学金では、月々返済に加えて「ボーナス返済」を併用しているケースもあります。
たとえば、
- ボーナス月:各10万円×年2回
これは、月換算で約16,000円に相当します。
ボーナスが減ると、家計が一気に赤字になりやすい。
この点は、先に知っておく価値があります。
6. 繰上返済が「正解にならない」理由(運用との比較)
FP相談でよく聞く質問があります。
少しでも早く返したほうが楽ですよね?
ただし、答えはNOになることが多いです。
理由①:利率が低い
利率0.5%前後の奨学金の場合、繰上返済に回す資金を新NISAなど長期・分散の資産形成に充てたほうが、家計全体として合理的になるケースも少なくありません。
理由②:手元資金が先に尽きる
教育費のピークはこれからです。
無理な繰上返済で生活防衛資金を削ると、
- 失業
- 休職
- 体調不良
といったリスクに耐えられなくなります。
まず守るべきは、家計の持久力です。
7. 使っていい制度を「知らない」まま返していないか(年収要件あり)
どうしても苦しい時は、制度を使ってください。
奨学金は「黙って耐えるもの」ではありません。
- 返還期限猶予制度:年収300万円以下(給与所得者の目安)
- 減額返還制度:年収325万円以下(給与所得者の目安)
ただし、災害・傷病・経済的困難など「返還困難な事情」がある場合は、個別相談が可能です。
まずはJASSOの公式サイトにある返還中の方向け相談窓口を確認しましょう。
▶ 日本学生支援機構(JASSO)|奨学金返還に関する相談窓口
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/henkan/
8. 世帯年収別に見る「奨学金がある家計」の現実
※以下のケースは平均値ではなく、35歳前後の共働き世帯に多く見られる年収レンジをもとにしたモデルケースです。
ケース① 世帯年収500万円(手取り目安:年約380万円)
- ボーナス返済があると赤字化しやすい
- 教育費は「その都度対応」になりがち
ケース② 世帯年収600万円(手取り目安:年約450万円)
- 一見余裕がありそうでも、医療費・帰省などの突発支出で家計が揺らぐ
ケース③ 世帯年収700万円(手取り目安:年約520万円)
- 返済はできるが「貯まらない」
- 奨学金がなければ年20万円以上の貯蓄差が出ることもある
9. 家族形態別に見る“詰まりやすいポイント”
※本記事でいう「シングル世帯」とは、子どもを養育しているひとり親世帯(離婚・死別・非婚を含む)を指します。
●共働き世帯
- どちらかの収入減(育休・時短)で、想定以上に苦しくなる
- 奨学金が「見えない固定費」として重くのしかかる
●ひとり親世帯
- 教育費と返済の両立が最難関
- 制度利用は「甘え」ではなく、生活を守るための生存戦略
10. FPとして伝えたい現実的な結論
奨学金は「気合で早く返すもの」ではありません。
35歳前後は、返済を続けながら家庭を守り、次世代の教育を考える、人生で最も負荷がかかる時期です。
FP的な観点から見ると、ここで必要になるのが**「トータルなシミュレーション」**です。
だからこそ、奨学金・教育資金・住宅ローンを単体で考えないでください。
FPが行う「トータルでのシミュレーション」とは、次のような整理を指します。
- 奨学金:残高・残年数・利率・ボーナス返済の有無
- 教育費:今後10〜15年で必要になる総額とピーク時期(中学・高校・大学)
- 住宅費:ローン残高・金利タイプ・将来の修繕費や住み替え可能性
- 収入:現在の世帯年収だけでなく、育休・時短・転職などによる変動リスク
- 生活防衛資金:最低限確保すべき生活費6か月分
これらを同じ時間軸(年齢)に並べて可視化し、
「いつ・どこで・どれくらい負担が重なるのか」を確認します。
その上で、
- 今は返済ペースを落とすべきか
- 教育費の準備を優先すべきか
- 住宅費を含めた見直しが必要か
を判断します。
最後に、優先順位はこの順番です。
- 家計を壊さない
- 生活を守る
- その上で、冷静に返済と向き合う
よくある質問(FAQ)
Q. 35歳で奨学金が残っているのはおかしいですか?
A. おかしくありません。第二種を20年返済で組んでいれば、35歳はまだ返済期間が7〜8年残る地点です。
Q. 年収が要件を超えている場合、制度は一切使えませんか?
A. 年収要件がある制度はあります。ただし、返還困難な事情があれば個別相談が可能です。
Q. 繰上返済はしたほうがいいですか?
A. 利率と家計状況によります。生活防衛資金が薄い場合は、繰上返済より家計の持久力を優先する判断が多くなります。
※本記事の数値はモデルケースです。必ずご自身の返済予定表で詳細をご確認ください。
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